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埤雅の研究>釈草篇(4)【菟絲】 木に在るは女蘿と為す。草に在るは菟絲と為す。旧説に、「上に莬絲有れば下に必ず伏菟の根有り。菟の下に在れば則ち絲は上に生ずるを得ず。然れども其の実は属さざるなり」と。『淮南子』に曰く、「下に茯苓あれば、上に菟絲有り」(1)と。『詩』に曰く、「蔦と女蘿、松栢に施る」(2)と。言ふこころは、蔦の物為るは寄生し、女蘿は浮蔓す。尚ほ施を松栢に得。以て人にして如かざるべけんや。且つ姓は本を同じくして生じ、族は支を同じくして出づ。則ち寄生と浮蔓なる者とは異なる。故に『詩』、此を以て王を駮す。菟絲は一名、唐、一名、蒙、一名、王女。『爾雅』に曰く、「唐蒙は女蘿、女蘿は莬絲」(3)と。又曰く、「唐は王女」(4)とは是れなりと。『詩』に曰く、「爰に唐を采る、沬の郷に」「爰に麦を采る、沬の北に」「爰に葑を采る、沬の東に」(5)と。唐は山に生ず。麦は野に生ず。葑は圃に生ず。北は幽の地なり。東は顕の地なり。北は以て期を幽遠に見るを言ふ。東は則ち特だ幽遠に期するのみに非ざるを言ふ。又た明顕に至りて且つ近し。此れ序の所謂「政散じ民流れて、止むべからざる者なり」(6)と。『淮南子』に曰く、「菟絲は根無くして生ず、蛇は足無くして行く、魚は耳無くして聴く、蝉は口無くして鳴く。皆自然の者なり」(7)と。

[注釈](1)    『淮南子』説山訓。(2)    『詩経』小雅・甫田之什・頍弁の第一スタンザ。(3)    『爾雅』釈草。(4)    『爾雅』釈草に「蒙は王女なり」とあるが、完全には一致しない。(5)    『詩経』国風・鄘風・桑中の第一、二、三スタンザ。(6)    『毛詩』国風・鄘風・桑中の詩序。(7)    『淮南子』説林訓。今本『淮南子』、「皆自」二字を「有」に作る。

[考察]

『神農本草経』では菟絲などの寄生植物に「菟絲」「松蘿」「桑上寄生」の三つがあり、森立之はそれぞれ「草寄生」「松寄生」「桑寄生」のことであるという。『神農本草経』に「松蘿、一名女蘿」とあり「松蘿」は「女蘿」の別名であるから、『埤雅』の「木に在るは女蘿と為す。草に在るは菟絲と為す」と一致する。『爾雅』の「唐蒙は女蘿、女蘿は莬絲」はこの説と矛盾するようだが、森立之は『爾雅』では草寄生(唐蒙、菟絲)と松寄生(女蘿)を一類とみなし、統べて述べたものと解釈している(『本草経攷注』)。この説に従えば、「菟絲」は狭義には「草寄生」、広義には「草寄生」と「松寄生」の両方を指すということになる。

『詩経』の寄生植物には「蔦」「女蘿」「唐」がある。『詩経植物図鑑』では「蔦」を桑寄生(Taxillussutchuenensis)、「女蘿」をヨコワサルオガセ(松蘿 Usnea diffracta)、「唐」をハマネナシカズラ(菟絲子CuscutaChinensis)に当てている。桑寄生はニレ科・ブナ科・バラ科・クワ科の広葉樹などに寄生し、サルオガセの仲間は針葉樹帯に多く生息し、ハマネナシカズラはキク科・マメ科・タデ科などの草本に多く寄生する。(野口)

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